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名古屋地方裁判所 昭和42年(ワ)1167号 判決

原告

近藤日吉

他別紙原告目録記載の三六名

右三七名代理人

朽名幸雄

被告

愛知県愛知郡東郷町

右代表者

石川正巳

代理人

花村美樹

主文

被告は

一、別紙原告目録第一の原告ら二一名に対し別紙物件目録第一記載の不動産につき原告らの共有(持分各二一分の一宛)とする所有権移転登記手続

二、別紙原告目録第二の原告ら一〇名のうち

(一)  原告近藤幾治、同加藤文彦、同加藤八郎右エ門に対し別紙物件目録第二の(一)記載の不動産につき同原告らの共有(持分各三分の一宛)とする、原告加藤屯、同野々山隆夫、同石川元一に対し別紙物件目録第二の(二)記載の不動産につき同原告らの共有(持分各三分の一宛)とする、原告近藤長伝、同近藤一哉、同野々山行雄に対し別紙物件目録第二の(三)記載の不動産につき同原告らの共有(持分各三分の一宛)とする、各所有権移転登記手続

(二)  原告近藤績に対し別紙物件目録第二の(四)記載の不動産につき所有権移転登記手続

三、別紙原告目録第三の原告ら六名に対し別紙物件目録第三記載の不動産につき原告らの共有(持分各六分の一宛)とする所有権移転登記手続

をそれぞれせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

原告らは本件土地は原告ら(別紙原告目録記載の原告ら中上に○印をつけてある者はその前主)が自創法によつて売渡を受けたものであるところ、被告の名義に所有権取得登記が経由されている理由は、被告の名義を借りたものである旨を主張し、被告は本件土地は被告が自創法により売渡を受けたものであると主張するので、以下この点について審案する。

一本件土地について被告名義に所有権取得登記が経由されていることは当事者間に争いがなく、右の登記原因は〈証拠〉によると本件第一の土地は昭和二四年八月一日付、同第二、第三の土地は同二六年二月一日付の自創法四一条二項による売渡であることが認められ他に右認定に反する証拠はない。

二(一)しかして原告らはいずれも傍示本開墾組合員であること、この組合は昭和二四年頃農地調整法により未墾地山林、原野を開墾し自作農を創設し併せて食糧増産に資することを目的として設立した組合(但し法人格はない)であること、別紙原告目録第一の原告ら二一名が千子地区、同第二の一〇名が上針廻間地区、同第三の六名が白土地区に属している者であること、原告らは昭和二四年から同二六年にかけて自創法四一条二項により国から農地となるべき土地の売渡を受けて農地造成を施行してきたものであること、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二)〈証拠〉を総合すると次の事実が認められる。

1、原告らは第二次大戦後当時の愛知県愛知郡東郷村(現在は東郷町になつている)に入植した者である。

2、本件土地はいずれも農地もしくは農地となるべき土地に接続した土地であつて昭和二四年頃の自創法にもとづく買収、売渡が行われた当時は附帯地もしくは不可耕地とよばれ、農地を保護するための土地あるいは薪炭採草地として原告ら入植者にとつて土地を開墾し生活して行くために必要な土地であつた。

3、原告らは農地もしくは農地となるべき土地については自創法の規定にもとづき売渡を受け、同時にそれぞれ所有権取得登記を経由した。

4、また昭和二五、六年中に原告ら(別紙原告目録記載の原告中○印のある者はその前主)は、本件土地についても国から売渡を受け、その代金を原告らの請求原因(二)で主張しているような割合で、それぞれ東郷村農地委員会又は傍示本開墾組合長を通じて国に支払つたのである。

5、しかし当時は未だ終戦後の混乱期であり、しかも現在のように農業用の機械等も発達しておらなかつた時期であつた。そのうえ本件土地はいわゆる附帯地であつたため測量して分筆したうえ原告ら各自がそれぞれ所有権取得登記を経由することには相当な労力が必要であり、そのような人的な余裕がなかつたのである。そこで原告らはどのようにして本件土地についての権利を保全するかについて協議した結果、愛知県当局の指導もあつたので、昭和二六年頃原告らが最も安全に右の権利を保全できる方法として被告(当時村)の名義で売渡を受けること決定したのである。そして被告は原告らが支払つた前記の金員で国から本件土地の売渡を受けることにしたのである。

6、本件土地は昭和四六年四月一日(本件口頭弁論終結時)においては、原告らにおいてすべて開墾し農地化されている。

以上の事実が認められ他に右認定に反する証拠はない。

(三) 被告はこの点に関しては当時予算措置をとらなかつたので本件土地の買受代金は原告らの立替を受けたものである旨主張する。しかし右の被告の主張は前記の認定事実に照して採用しがたい。のみならず、もし被告が主張するように原告らから立替を受けて本件土地を被告が売渡を受けたものとするならば、被告としては、その後に予算措置を講じて原告らに右の原告らから立替を受けた金員を返還してしかるべきであるが、本件全立証によるも被告が右の予算措置を講じたことを認めるに足る証拠がない。

(四)1、次に被告は被告が本件土地の売渡を受けたことの根拠として自創法にもとづき国から売渡を受ける行為は要式行為であり、被告はその手続をとつて本件土地の売渡を受けたものである旨を主張している。

しかして自創法四一条二項、一八条ないし二〇条によれば右の売渡を受ける行為は一定の事項が記載された売渡通知書によつて行われる要式行為であり、右の売渡は国の行政処分であることは明らかである。

そして被告が右の形式を践んだところの売渡を受けた者であることは前認定のとおりである。しかし原告ら被告の名義で本件土地の売渡を受けなければならなかつた事情については前認定のとおりであり、この事実関係によれば原告らは被告に対して本件土地を被告の名義で国から売渡を受けることを目的とした信託行為をしたものと推認するのが相当である。しかして自創法にもとづく土地の売渡は本来買受資格を有しない者(例えば農業に精進する見込のない者―同法四一条参照)が、買受資格を有する者に対して土地の買受を信託し事後に登記名義を移転するということは、自作農を創設するという同法の目的に反するものであることが明らかであるから無効であることはいうまでもない。

しかし原告らは前認定の事実関係よりすれば農業に精進している者であるから自創法にもとづく土地の買受資格を有する者であることは明らかである。そして原告らが被告に本件土地の買受を信託しなければならなかつた事情には前認定のようにやむを得なかつたものがあると考えられるので、原告らの被告に対する前記信託行為は有効であるといわなければならない。

2、しかして原告らの被告の名義を借りて原告らが本件土地の売渡を受けたものであるとの主張は右の信託行為がなされたとの趣旨に解するのが相当である。

そして前認定のとおり本件土地は全て原告らにおいて開墾し原告らにおいて占有支配をしているものであるところ、被告は単に本件土地の所有名義人であるにすぎず、本件土地から何らの利益も享受しておらず原告らのみが本件土地から利益を享受しているものであることが明らかである。

したがつて原告らは被告に対して前記信託行為を解除することができるものであるところ(信託法五七条)、原告らが被告に対して昭和四二年四月二七日に、本件土地について原告らに移転登記手続をなすよう申し入れていることは当事者間に争いがない事実であるところ原告らの右の申入れは前記信託行為の解除の意思表示が含まれていると推認するのが相当であり、右の解除の意思表示は前記判断に照して有効であるといわなければならない。

三次に〈証拠〉によると次の事実が認められる。

原告らが被告の名義で本件土地の売渡を受けた後一〇年以上もの間本件土地は国(農林省)の名義で所有権取得登記が経由されていた。その間に本件土地の旧地主である訴外小野田又八らが本件土地を自分らに払下げるよう被告の長や議会に働きかけるようになり一方原告らも速かに本件土地を自己らに所有権取得登記手続をなすよう被告に働きかけるようになつた。このように本件土地をめぐつて紛争が生じたので国(農林省)の出先機関である愛知県当局は右の紛争を速かに解決しなければ本件土地を被告の名義に登記しない旨を言つてきたので、昭和三五年頃被告が速かに本件土地について所有権取得登記を経由するための便法として本件土地について旧地主と原告らが各自一定の割合で利用管理するとの趣旨の書面(甲第九号証)を作成して愛知県に提出し、その結果昭和三六年一二月一九日頃本件各土地について自創法四一条により被告名義に所有権取得登記が経由されるに至つたのである。

以上の事実が認められ右認定に反する証人小島劔市の証言(第一、二回)は措信しがたく他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そして右の利用管理について原告らが承諾したとの証拠として被告が提出した乙第九号証の三には原告らの代表者の署名押印がないこと及び原告石川種松本人尋問の結果によると原告らは右の利用管理案(乙第九号証の二、別紙〈略〉のとおり)を承諾したものではなかつたことが認められることに照すと、原告らが右の利用管理案を破棄したから原告らは本件土地について何の権利も有さなくなつたとの被告の主張は理由がない。

四次に〈証拠〉によると原告らと同様に被告の名義で自創法にもとづき土地の土地の売渡を受けた徳倉就農組合及び和合開墾組合の組合員らは被告が国から自創法にもとづき売渡を受けたとして被告名義に所有権取得登記が経由されている本件土地と同様の土地について、被告から昭和三九年四月頃無償で所有権移転登記を受けていることが認められ他に右認定に反する証拠はない。

被告は右の土地は本件とは関係がない旨を主張するが、右の徳倉就農組合及び和合開墾組合も原告らの組織している組合と全く同じ目的を有する組合であり、原告らと同じ事情で被告名義で土地の売渡を受けたものであるから、右の徳倉就農組合及び和合開墾組合と原告らの組合とを被告が区別して扱わなければならない実質的な理由は本件全立証によるも見出しがたいので被告の右の主張は採用できないところである。

五してみれば本件土地はいずれも実質的には原告らがそれぞれ請求原因(二)で主張しているように自創法にもとづいて売渡を受けたものというべきであるから本件土地はそれぞれ請求原因(二)に記載した原告らの所有に属するものといわなければならない。

そうすると被告は原告らに対して本件土地について主文に記載したように所有権移転登記手続をなすべき義務があるから、原告らの本訴請求を正当として認容し民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。(高橋爽一郎)

原告目録〈略〉

物件目録〈略〉

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